前回は、退出事業者と生存事業者のデータを比較し、「事前に調達先を確保していたかどうか」が事業存続を分けたことを確認しました。

では、量的供給力確保義務に対応するために、具体的にどのような調達ポートフォリオを設計すればよいのか。今回は、各調達チャネルの特徴を整理した上で、事業規模別に現実的なアプローチを考えます。

義務達成に使える調達チャネルの全体像

量的供給力確保義務では、スポット市場以外からの電力調達を一定割合確保することが求められます。確保手段として認められる(または議論されている)主な調達チャネルを整理します。

相対契約(PPA)

発電事業者との長期電力購入契約です。価格と数量を事前に固定できるため、調達コストの安定性が最も高い手段です。

項目 内容
メリット 価格安定性が高い。供給力として明確に計上可能
デメリット 長期コミットが必要。市場価格が下落した場合にも契約単価で調達
適した用途 ベースロード電源の確保。義務水準の基盤部分
留意点 発電事業者の信用リスク評価が必要。契約条件の交渉力が問われる

電力先物取引

TOCOM(東京商品取引所)やEEXでの先物取引による価格ヘッジです。電力先物市場は拡大傾向にあり、2024年実績でJEPXスポット市場取引量に対する比率は29%に達しています。

項目 内容
メリット 市場を通じた柔軟な価格ヘッジ。取引相手の信用リスクが低い(清算機関が介在)
デメリット 証拠金の拠出が必要。流動性は改善傾向だが限定的なエリア・期間もある
適した用途 相対契約でカバーしきれない部分の価格ヘッジ
留意点 現物での確保が基本。先物の扱いは引き続き検討中。ヘッジ戦略の設計にノウハウが必要

中長期取引市場

卸電力取引所(JEPX)に2028年開設が予定されている先渡市場です。既存の先渡市場よりも長期の取引を念頭に設計されています。

項目 内容
メリット 取引所取引による透明性。相対交渉より参入障壁が低い
デメリット 2028年開設予定のため、現時点では利用不可
適した用途 中規模事業者の中長期調達。相対契約の補完
留意点 市場の流動性(開設当初の取引量)に注目が必要

自社電源

自社保有の発電設備による供給力の確保です。

項目 内容
メリット 最も確実な供給力。燃料調達が安定すれば調達コストの予見性も高い
デメリット 設備投資が大きい。建設期間が長い(数年単位)
適した用途 大規模事業者のベースロード確保
留意点 既存電源の維持管理コスト。再エネ電源を含め電源種別は問わない(kWhベースで計上)

共同調達(BG)

需要バランシンググループ(BG)による複数事業者での共同調達です。合算評価が認められる方向で議論が進んでいます。

項目 内容
メリット 小規模事業者でも大口の調達力を確保可能。リスクの分散
デメリット BG内の調整コスト。他事業者との合意形成が必要
適した用途 小規模事業者にとって最も現実的な選択肢のひとつ
留意点 BG内での義務の按分ルールは制度設計において議論中

ポートフォリオ設計の基本原則

個々のチャネルの特徴を理解した上で、これらをどう組み合わせるかが「ポートフォリオ設計」です。以下の3つの原則が基本となります。

原則1: ベースロードは中長期契約で固める

想定需要のうち、安定的に発生する部分(ベースロード)は、相対契約や中長期市場取引で確保するのが原則です。この部分が義務水準の達成基盤となります。

義務水準がN-3年度前に50%、N-1年度前に70%であることを考えると、ベースロードとして需要(販売実績ベース)の50%程度を3年前までに相対契約で確保することが、最もシンプルなアプローチです。

原則2: 変動分はスポット+先物でカバー

需要の変動部分(季節変動、気温連動、需要家の増減など)は、スポット市場での調達に加え、先物取引を組み合わせることで価格変動リスクをヘッジします。

ベースロードを相対契約で固めた上で、残りの20〜50%をスポット市場と先物のミックスで対応するイメージです。先物でどの程度をヘッジするかは、リスク許容度と市場見通しに基づいて判断します。

原則3: 需要予測の精度が全体の成否を左右する

どれほど調達チャネルを分散しても、需要予測が大きく外れれば、過剰調達や不足が生じます。過剰に確保すれば余剰コストが、不足すればスポット市場での追加調達やインバランスコストが発生します。

需要予測の精度向上は、ポートフォリオ設計の前提条件です。過去の実績データの分析、気象データの活用、需要家の契約動向の把握など、予測精度を高める取り組みを継続的に行うことが重要です。

事業規模別の現実的アプローチ

調達ポートフォリオの設計は、事業規模によって現実的な選択肢が大きく異なります。

大規模事業者(販売電力量5億kWh以上)

大規模事業者は義務水準が標準(N-3: 50%、N-1: 70%)で適用されます。一方、交渉力と資金力を活かした調達が可能です。

推奨構成の考え方

  • ベースロード(50-60%): 相対契約(PPA)+ 自社電源
  • ミドル(15-25%): 先物取引 + 中長期市場(2028年以降)
  • ピーク・変動(15-25%): スポット市場

自社電源を保有している場合は、それを義務達成の基盤に据えた上で、不足分を相対契約と先物で補完する構成が合理的です。

中規模事業者

大規模事業者ほどの交渉力はないものの、単独での相対契約締結が可能な規模の事業者です。

推奨構成の考え方

  • ベースロード(40-50%): 相対契約
  • ミドル(20-30%): 中長期市場(2028年以降)+ 先物取引
  • ピーク・変動(20-30%): スポット市場

中長期取引市場が2028年に開設された段階で、相対契約の補完手段として積極的に活用することが想定されます。市場開設前の2026〜2027年は、相対契約の交渉と先物取引の体制構築を優先すべき時期です。

小規模事業者(販売電力量5億kWh未満)

義務水準は軽減(N-3: 2.5割、N-1: 5割)が運用開始から一定期間講じられますが、それでも相応の調達体制の整備が求められます。

推奨構成の考え方

  • ベースロード(25-40%): BG参加による共同調達 + 小規模相対契約
  • ミドル(10-20%): 中長期市場(2028年以降)
  • ピーク・変動(40-60%): スポット市場

小規模事業者にとって、BG参加は最も現実的な義務達成手段です。複数事業者で調達力を合算することで、単独では難しい中長期契約の締結が可能になります。また、BG内での調達ノウハウの共有やリスク分散の効果も期待できます。

管理の複雑性 ── なぜ「仕組み」が必要になるか

ここまでの議論で明らかなように、義務達成に向けた調達ポートフォリオは、複数のチャネル、複数の契約期間、変動する市場価格を組み合わせたものになります。

この管理には、以下のような情報を常に把握し、更新する必要があります。

  • 各契約の契約量、期間、単価、残量
  • スポット市場でのポジション
  • 先物取引の建玉と時価評価
  • 想定需要に対する確保率(義務達成率)
  • 市場価格の変動とポートフォリオへの影響

調達チャネルが2〜3種類で契約件数が少ないうちは、スプレッドシートでの管理も不可能ではありません。しかし、義務対応のために中長期契約や先物取引を拡充していけば、管理対象は急速に増加します。

さらに問題なのは、これらの情報は静的ではないということです。市場価格は30分単位で変動し、契約の更新時期は順次到来し、需要予測は継続的に見直す必要があります。「月末にまとめて集計する」という管理方法では、判断が常に遅れることになります。

次回は、この「管理の複雑性」を深掘りし、なぜExcelベースの管理では限界があるのか、そしてETRM(エネルギー取引・リスク管理システム)がどのようにこの課題を解決するのかを解説します。

出典:
資源エネルギー庁「小売電気事業者の量的な供給力確保の在り方について」(第10回 電力システム改革の検証を踏まえた制度設計WG資料、2026年3月17日)
JEPXスポット市場取引量に対する電力先物取引高の比率: 2024年実績

※本記事に記載の義務水準、確保手段、市場開設スケジュール等は審議中の内容を含み、今後変更される可能性があります。
※推奨構成の比率はあくまで考え方の例示であり、個別の事業環境・リスク許容度に応じて設計する必要があります。