「5月は安い」は月平均のマジック
5月のJEPXスポット市場を月平均で見ると、東京エリアは16.71円/kWhと4月の19.01円から12%低下しています。「中東情勢が落ち着いてきたのか」と受け取りたくなる数字ですが、週次データを見るとまったく異なる姿が浮かび上がります。
5月の月平均を押し下げている最大の要因はゴールデンウィーク(5/3〜5/6)の需要急落です。5/5(こどもの日)の東京エリア日次平均は7.48円/kWhと月内最安値を記録。GW期間中の平均は12.8円に沈みましたが、GW明け以降は一転して急回復しています。
| 週 | 期間 | 東京(円/kWh) | 中部(円/kWh) | 関西(円/kWh) |
|---|---|---|---|---|
| 4月平均 | 4/1〜4/30 | 19.01 | 16.41 | 12.63 |
| 5月第1週 | 5/1〜5/3 | 14.58 | 12.71 | 9.71 |
| GW(第2週) | 5/4〜5/10 | 12.82 | 11.33 | 10.04 |
| 第3週 | 5/11〜5/17 | 18.13 | 16.87 | 14.02 |
| 第4週(直近) | 5/18〜5/24 | 20.10 | 18.80 | 12.72 |
単位:円/kWh。日次平均エリアプライスの週平均。出典:JEPX公開データを基に算出
GW明け第3週(5/11〜17)の東京は18.13円、直近第4週(5/18〜24)は20.10円と、4月平均の19.01円を上回る水準に達しています。5/21には22.47円の日内ピークも記録しており、価格の高止まりは続いていると言えます。
GW明けのV字回復:需給タイトの構造は変わっていない
GW中に7〜12円台まで急落した価格が、わずか1週間でほぼ元の水準に戻ったことは、市場の需給構造が根本的には変化していないことを示しています。
5月の価格ハイライト
- 5/5(こどもの日):東京 7.48円(月内最安値)
- 5/9(金曜):東京 19.99円(GW明け最初の平日終わりに急回復)
- 5/21(木曜):東京 22.47円(月内最高値)
- 5/18〜24週平均:東京 20.10円、4月平均を+5.7%上回る
このV字回復のパターンは、GW後に工場・オフィスの稼働が再開し、クーラーの使用が増え始めたことによる需要の急増を反映しています。供給面では4月から続くLNGコスト高が依然として電源コストを押し上げており、需要回復とのダブル効果で価格が戻りやすい環境にあります。
エリア間分断は緩和 ── 関西の底上げが顕著
4月に際立っていた東京・中部と関西の大きな価格差は、5月に入って縮小傾向を示しています。
| 東京-中部 スプレッド | 東京-中部 分断率 | 中部-関西 スプレッド | 中部-関西 分断率 | |
|---|---|---|---|---|
| 4月平均 | 2.61円 | 38% | 3.78円 | 74% |
| 5月平均 | 1.30円 | 32% | 2.51円 | 55% |
| 直近週(5/18〜24) | 1.30円 | 28% | 7.38円 | 31% |
スプレッド:日次平均の差(絶対値平均)。分断率:その日の48コマのうち分断が発生したコマの割合。出典:JEPX公開データを基に算出
東京-中部間の分断率は4月の38%から直近週は28%まで低下しています。一方で中部-関西のスプレッドは直近週に再び広がりを見せており(7.38円)、分断コマ数そのものは31%と4月比では改善しているものの、分断が発生した時間帯の価格差は拡大していることを示しています。
連系線の混雑状況はエリアごとに差があり、「関西だけ安い」という状況は一概に改善したとは言えない点には注意が必要です。
スポット100%依存の事業者への影響
GW明け以降の回復スピードを見ると、スポット市場をウォッチしている事業者には当然、想定の範囲内だったかもしれません。しかし問題は、この値動きに機動的に対応できているかです。
4月の急騰局面では「調達コストが2倍近くになった」という事業者の声が多数聞かれました。5月はGWで一時的に価格が落ち、その後また戻るという局面でした。スポット調達のみの事業者は、4月の損失をGW安値でカバーしようとした可能性がありますが、GW明け後の急回復は「安値期間」が非常に短かったことを示しています。
スポット100%事業者が直面したシナリオ
4月(月平均19.01円)→ 5/5安値(7.48円)→ 5/21高値(22.47円)という値動きは、スポット依存事業者にとって「安値でつなぐ」機会が数日しかなかったことを意味します。GW中に短期調達を積み増した事業者も、その後の急回復で利益が圧縮された可能性があります。
一方、相対契約で50%以上を確保している事業者は、こうした短期の値動きの影響を受けずに、安定した調達コストを維持しています。
今後の見通しと注目点
6月以降の市場を見るうえで、注目すべきポイントは3つです。
6月以降のチェックポイント
- 夏季需要の立ち上がり:6月下旬〜7月にかけて冷房需要が急増します。直近2週間の20円超えが「夏季に向けた先行上昇」であれば、7〜8月にかけてさらに上振れるリスクがあります。
- 中東情勢の続報:ホルムズ海峡の通航状況とカタールLNG生産の回復進捗が、LNG調達コストを通じてJEPXに影響します。5月は4月ほどの急騰は見られませんでしたが、地政学リスクが消えたわけではありません。
- エリア間分断の動向:中部-関西の分断が再び拡大しつつある点は要注意です。再エネ出力の変動や原子力の計画外停止が重なると、4月のような大きなスプレッドが復活する可能性があります。
まとめ
5月の月平均価格(東京16.71円)だけを見ると「価格が落ち着いた」と感じるかもしれませんが、実態はGWという季節要因による一時的な落ち込みであり、GW明け以降は4月平均を上回る水準で推移しています。
市場が高止まりする中、スポット調達の短期変動に一喜一憂するのではなく、相対契約による調達安定化と、リアルタイムのポジション管理を組み合わせることが、今の環境では最も現実的なリスク対応策です。
量的供給力確保義務の運用開始(2030年2月提出の供給計画から)まで実質3年強。調達契約の交渉・締結、そのモニタリング体制の整備には相応の時間が必要です。今の市場動向こそが、制度対応を急ぐ理由を毎週教えてくれています。
