6月:月平均20円超は「2022年危機」以来

2026年6月のJEPXスポット市場は、東京エリアの月平均が20.01円/kWhに達しました。過去5年の6月と比べると、この水準の異常さがわかります。

6月の東京エリア月平均(円/kWh) 備考
2022年 25.27 エネルギー危機(83社退出の年)
2023年 10.82
2024年 12.37
2025年 12.96
2026年 20.01 前年比+54%。ホルムズ危機の影響が持続

単位:円/kWh。日次平均エリアプライスの月平均。出典:JEPX公開データを基に算出

6月は30日のうち19日で日次平均が20円を超え、月初の6/3には23.90円のピークを付けました。2023〜2025年の6月が11〜13円台だったことを考えると、ほぼ「倍の水準」で1カ月が推移したことになります。Vol.6(5月25日付)で報じたLNG危機プレミアムの「恒常化」が、そのまま初夏の市場に持ち込まれた形です。

転機は6月17日 ── 覚書署名で燃料市場が急落、JEPXが追随

しかし月の後半、市場の風景は一変します。6月17日に米・イランが戦争終結とホルムズ封鎖解除を含む「イスラマバード覚書」に署名(詳細はVol.7)。LNG JKMスポットは6月中旬に週間で18%下落し、Brent原油の6月平均は85ドル/バレルと4月ピークから30ドル超低下しました(EIA)。週次データを見ると、JEPXがこれに追随していく様子がはっきり読み取れます。

期間 東京(円/kWh) 中部(円/kWh) 関西(円/kWh)
6月第1週 6/1〜6/7 21.44 20.24 18.02
第2週 6/8〜6/14 20.45 17.31 12.77
第3週(覚書署名) 6/15〜6/21 21.56 19.02 14.48
第4週 6/22〜6/28 17.80 15.78 11.16
第5週 6/29〜7/5 15.31 14.28 10.62
直近週 7/6〜7/12 15.72 14.27 12.72

単位:円/kWh。日次平均エリアプライスの週平均(月曜起点)。出典:JEPX公開データを基に算出

覚書署名を含む第3週まで21円台を維持していた東京エリアは、翌週に17.80円、その次の週には15.31円へと、2週間で約6円(-28%)下落しました。燃料市況の急落がスポット市場の「フロア価格」を引き下げたと考えられる動きです。

7月上旬は「平年並み」── ただし2つの留保が付く

その結果、7月上旬(7/1〜12)の東京エリア平均は15.47円/kWh。同期間の2024年(15.79円)・2025年(14.88円)とほぼ同水準であり、数字の上では「ホルムズ危機前の平年並み」に戻ったことになります。4月以降初めての正常化ですが、この安定をそのまま信じるわけにはいきません。留保が2つあります。

留保①:7月8日の戦闘再開は、まだ価格に乗っていない

7月8日に米国がイランへの攻撃を再開し、原油は急騰、7月10日にはホルムズ通航がほぼ停止しました(Vol.7参照)。しかし7/8〜11の東京エリアは14〜16円台で推移しており、燃料市況の反転はまだJEPXに波及していません。4月の経験では、燃料市況の急変がスポット価格に本格的に現れるまで2〜4週間のタイムラグがありました。7月中下旬は夏季ピーク需要と重なるだけに、再上昇への警戒が必要です。

留保②:7/12(日)の19.29円という「異例のシグナル」

直近の7/12(日曜)は日次平均19.29円と、前日から2.8円跳ねました。需要の少ない日曜としては突出した水準です(直近の日曜は6/28: 14.88円、7/5: 14.61円)。冷房需要の本格的な立ち上がりと中東情勢の再緊迫が重なった可能性があり、週明け以降の値動きを注視する必要があります。

エリア間分断:6月は「関西だけ安い」が再燃

もう一つ、6月の特徴として見逃せないのがエリア間分断の再拡大です。

東京-中部 スプレッド 東京-中部 分断率 中部-関西 スプレッド 中部-関西 分断率
5月平均 1.78円 36% 2.30円 50%
6月平均 2.10円 38% 4.04円 74%
7月(7/1〜12) 1.42円 39% 2.23円 73%
直近週(7/6〜12) 1.44円 39% 1.55円 66%

スプレッド:日次平均の差(絶対値平均)。分断率:48コマのうち分断が発生したコマの割合。出典:JEPX公開データを基に算出

6月の中部-関西間はスプレッド4.04円・分断率74%と、5月から一段と悪化しました。週次で見ると6月第2週の関西は12.77円と東京(20.45円)より7.7円も安く、「同じ商品がエリアで4割引」という状況が常態化していたことになります。7月に入って価格全体の低下とともに分断も緩和傾向にありますが、分断率は依然7割前後で推移しており、東西どちらに需要を持つかで調達コストが大きく変わる構造は続いています。

スポット依存事業者にとっての6〜7月 ── 「読み」が3回外れる相場

この6週間の値動きを事業者の目線で振り返ると、その難しさが際立ちます。

6月前半、市場は「危機プレミアムの恒常化」を前提に20円超で推移していました。ここで夏に向けた高値ヘッジに動いた事業者は、覚書署名後の急落で割高な固定を抱えた可能性があります。逆に6月下旬の急落を見て「正常化した」と判断し、夏季の手当てをスポットに寄せた事業者は、7月8日の戦闘再開でその前提を失いました。そして現在の15円台は、再燃をまだ織り込んでいない可能性が高い水準です。

6〜7月相場が突き付けた問い

  • 高値の恒常化(6月前半・20円超)→ 停戦による急落(6月下旬・15円台)→ 再燃リスク(7月8日〜)と、6週間で前提が3回変わった
  • どの局面の「読み」も、外れた場合のコストは調達構成次第で大きく変わる
  • 問われているのは相場観の精度ではなく、前提が崩れたときに即座にポジションを把握し、組み替えられる体制があるか

まとめ

6月のJEPXは月平均20.01円と「2022年以来」の高値で推移した一方、6月17日の米イラン覚書署名を境に急落し、7月上旬は平年並みの15円台まで沈静化しました。ただしこの安定は停戦の織り込みによるものであり、7月8日の戦闘再開・通航停止はまだ価格に反映されていません。夏季ピーク需要と燃料市況の反転が重なる7月中下旬〜8月は、今年の調達リスク管理にとって正念場になります。

週次の市場データはこちらのページで毎週更新しています。月平均では見えない転換点を、ぜひ定点観測に活用してください。