前回は、83社の新電力退出を教訓として生まれた量的供給力確保義務の全体像を解説しました。今回は、退出事業者のデータをさらに深掘りし、「なぜ退出に至ったのか」「生存事業者と何が違ったのか」を明らかにします。

自社の調達行動が、退出事業者に近いのか、それとも生存事業者のパターンに近いのか。数字と向き合うことが、最も確実な「現状把握」の第一歩です。

調達先確保率に現れた「格差」

資源エネルギー庁が2021年度供給計画を基に分析した調達先確保割合のデータは、退出事業者と全体の間にある構造的な差を明確に示しています。

1年後の調達先確保割合(事業者数ベース)

区分 10%未満 10〜40% 40〜70% 70%以上
全体(552社) 42% 10% 6% 42%
退出事業者(56社) 68% 5% 4% 23%

3年後の調達先確保割合(事業者数ベース)

区分 10%未満 10〜40% 40〜70% 70%以上
全体(568社) 51% 8% 4% 37%
退出事業者(59社) 76% 5% 0% 19%

数字の意味するところは明快です。退出事業者の圧倒的多数が、将来の調達先をほぼ確保していませんでした。特に3年後の調達において、退出事業者の76%が確保率10%未満だったのに対し、全体では37%が70%以上を確保していました。

ポイント

この差は「結果」ではなく「構造」です。調達先を事前に確保する行動を取っていたか否かが、その後の事業存続を分けたと言えます。

退出パターンの類型化

83社の退出には、いくつかの共通するパターンが見て取れます。個々の事業者の経緯は異なりますが、構造的なリスク要因としては以下の3つの類型に整理できます。

パターンA:スポット依存型 ── 価格高騰で逆ザヤが常態化

最も多いパターンです。日々の調達をJEPXスポット市場に大きく依存していた事業者が、2021年末〜2022年のスポット価格高騰により、仕入価格が販売価格を恒常的に上回る「逆ザヤ」状態に陥りました。

スポット市場からの調達は、平常時にはコスト効率が高い一方で、市場急変時にはコストが一気に膨張するリスクを内包しています。需要家との小売契約が固定単価の場合、仕入価格の上昇分を転嫁できず、売れば売るほど損失が拡大するという状況に陥りました。

パターンB:需要予測乖離型 ── インバランスコストの増大

需要予測の精度が低く、計画値と実績値の乖離(インバランス)が恒常的に発生していた事業者です。インバランス精算単価は市場の需給状況に連動して大きく変動するため、予測精度の低い事業者は常に不利な精算を強いられることになります。

特に、急速に契約需要家を拡大した事業者の中には、需要予測のノウハウが追いつかないまま規模を拡大し、結果的にインバランスコストが収益を圧迫するケースが見られました。

パターンC:資金力不足型 ── 市場変動に耐える体力がなかった

市場環境の悪化が一時的であったとしても、それを乗り越えるための財務的な体力がなければ、事業の継続は困難です。卸売市場価格の高騰に伴う資金繰りの悪化、インバランス精算金の支払い困難、あるいは取引保証金の追加差し入れへの対応ができなかった事業者が、やむを得ず市場からの退出を選択しました。

3つのパターンに共通すること ── 「中長期的な調達先の確保が著しく低かった」という事実です。相対契約や先物取引で調達の一定量を事前に確保していれば、スポット価格高騰の影響は限定的となり、インバランスリスクも軽減され、資金繰りの急激な悪化も防げた可能性があります。

生存事業者に共通する調達行動

退出の教訓を裏返すと、市場の急変動を乗り越えた事業者には共通する行動パターンが見えてきます。

特徴1:調達ポートフォリオの分散

生存事業者の多くは、相対契約、先物取引、スポット市場、自社電源など複数の調達チャネルを組み合わせたポートフォリオを構築していました。単一チャネルへの過度な依存を避けることで、特定の市場環境変化に対する耐性を確保していたと考えられます。

特徴2:ベースロードの中長期確保

想定需要の相当部分を、中長期の相対契約でベースロードとして確保していた事業者は、スポット価格の高騰による損益への影響が限定的でした。前述のデータが示す通り、全体では37%の事業者が3年後の調達の70%以上を確保していましたが、退出事業者では19%にとどまりました。

特徴3:管理する「仕組み」の存在

調達チャネルを分散し、複数の契約を管理するには、それを正確に把握し、適時にモニタリングするための仕組みが必要です。市場の急変動時に素早く状況を把握し、追加的なヘッジを行うか、既存契約の条件を見直すか、需要側での対応を行うか ── その判断を支える管理体制が、事業継続の分かれ目となりました。

自社はどちらのパターンに近いか ── 簡易チェック5項目

ここまでのデータと分析を踏まえて、自社の調達行動が退出事業者のパターンに近いのか、生存事業者のパターンに近いのかを簡易的にチェックしてみましょう。

1. スポット市場からの調達比率が50%を超えている
→ スポット依存度が高い状態。2022年型の市場急変時に大きな影響を受けるリスクがあります。

2. 1年後の調達先確保率が40%未満である
→ 退出事業者に多かったパターンに該当します。短期的にも調達リスクに露出しています。

3. 3年後の調達先確保率が10%未満である
→ 退出事業者の76%がこの状態でした。量的供給力確保義務のN-3年度前50%の水準を大きく下回ります。

4. スポット価格が2倍になった場合の損益を試算したことがない
→ リスクの定量評価ができていない状態。問題に気づくのが「事後」になる可能性があります。

5. 調達ポジションの全体像を把握するのに1週間以上かかる
→ 市場の急変動時に迅速な判断ができない状態。管理の仕組みが不足しています。

チェック結果

0〜1項目該当:基本的なリスク管理体制が構築されています。制度対応に向けて、さらなる高度化を検討しましょう。

2〜3項目該当:改善すべき領域が明確です。量的供給力確保義務の適用開始までに、該当項目の対応を優先的に進めてください。

4〜5項目該当:退出事業者と類似のリスクプロファイルです。調達戦略の抜本的な見直しを早急に開始することを推奨します。

まとめ

83社の退出データは、調達リスク管理の重要性を数字で証明しています。退出は「不運」でも「市場のせい」でもなく、事前の準備の差がそのまま結果に現れたものでした。

量的供給力確保義務は、この教訓に基づく制度です。制度対応を「義務」として受動的に捉えるのではなく、自社の調達体制を見直す好機として活用することが、事業の持続性を高めることにつながります。

次回は、義務達成に向けた調達ポートフォリオの具体的な設計方法を解説します。相対契約、先物取引、中長期市場取引、自社電源、共同調達 ── それぞれの特徴と最適な組み合わせを、事業規模別に考えていきます。

出典:
資源エネルギー庁「2021年度供給計画」に基づく調達先確保割合データ
資源エネルギー庁「小売電気事業者の量的な供給力確保の在り方について」(第10回 電力システム改革の検証を踏まえた制度設計WG資料、2026年3月17日)

※退出パターンの類型化は、公開データに基づく一般的な傾向の分析であり、個別の事業者の経緯を特定するものではありません。